型コロナウイルスの感染拡大によって、企業における非常事態への対処能力の違いが顕著にあらわれています。今回の感染拡大で工場が以前のように稼働できない。非正規社員などを中心にした失業者の増加など多くの問題が山積しております。終息した場合でも、日本経済はこの先も長期的な低迷が予想されます。今回の事態に対してしっかり対処できた企業、できない企業と淘汰されます。危機管理の面で実績を残すことが出来ない企業は人材不足に陥り、労働者もどの企業に勤務しているかで、自身の安全に大きな差が生じ両面で見直していかなければならない状況になっているでしょう。

 

1.こんな時こそコミュニケーションが求められる

新型コロナウイルス感染症は、企業にとって顧客の減少などの「事実上のビジネスリスク」をもたらします。
それに加えて、社員や社外の利害関係者の心理が引き起こす「イメージ上の企業に対するマイナスの評価・評判が広まることによる経営リスク」が拡大する危険性が高いのが、新型コロナウイルス感染症における危機管理の特徴と言えます。

自社にクライシスが発生した場合には、社内の意見を聞いて方針を定める時間はありません。
企業のトップやマネジメントによる強いガバナンスを備えた対応が求められ、
「感染発生」から情報収集、意思決定、情報発信までをいかに迅速に遂行できるかどうかが成否を決定づけてしまいます。
このためには有事発生前から対応マニュアルや社内規定などの十分な整備が必要となります。
ポイントとなるのはワーストケースシナリオを想定しての対応を準備していくことです。

 

企業が社員に向けて行うべき対応は2つ
企業がクライシス発生前に社員向けに対策できることは大きく2つあります。
1つ目がリスクコミュニケーション、2つ目は感染リスクの低減対策です。
この 2 つが適切に行われていない場合、社内での「企業に対するマイナスの評価・評判が広まることによる経営リスク」や
場合によっては安全配慮義務を怠ったとして労働安全衛生上の「法規リスク」につながりかねないこととなります。

 

(1)社員向けリスクコミュニケーション
まず、社員向けリスクコミュニケーションで重要なのは「新型コロナウイルス」に関連した健康情報のリテラシーを上げる教育・啓発です。

●信頼できる公的機関の情報をベースに社内の対応ガイダンスを決定(厚生労働省、国立感染症研究所、WHO など)
●情報は常に変化するため、担当を決め情報を常にウォッチし最新の更新情報を迅速に社内共有
●ネット上などに氾濫するデマ情報に社員が惑わされていないかに注意を払い、会社としての公的見解で啓発を行う

 

(2)社員向けの感染対策
オフィスや自社の持つ店舗・施設での感染リスク低減対策の徹底が必要です。
こうした感染対策は、社員や顧客の健康を守るために重要なのは当然ですが、
対策を怠ることで社員や顧客から起こるマイナス評価を回避することにもつながります。

社内での感染対策を進める上では、厚生労働省などの公的なガイドラインに基づき次のような対応が必要となります。

●手洗い、アルコール消毒、咳エチケットの実施
●テレワーク / 時差通勤の実施
●社内外会議のオンライン化の実施
●社員の体調の報告や検温の義務化
●3密を避ける(○○人以上の集まりを避ける等と明示する)
●体調に不調が見られた場合の報告、出社停止の義務化(37.5度以上の熱が 4 日間以上続く、強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある等)
●社員に感染の兆候のみられる場合の相談(地域相談窓口や相談基準の確認)
●検査陽性時の報告の義務化

こうした対策が適切に実施されるためには社内への周知が徹底される必要があります。
感染対策の周知を進めていくと、感染のリスクを潔癖症的に心配する社員が現れてくることもあります。
社員が持つ不安の気持ちを否定せず、心配の要因を引き出し、気持ちや文脈を十分に受け止めた上でのコミュニケーションが大事になります。

 

例えば、次のように、
会社  「Aさんはなぜ心配なのですか?」
A さん 「SNS でこういうことが書かれていました」
会社  「なるほど、こういう情報を見ると心配ですよね。
ただこの情報は専門家によると根拠のない情報だと言われています。
会社は厚生労働省などの専門的なガイドラインに従って対応していますので、
安心してください。」

 

こうした対応を一人ひとりの社員に行っていくのは膨大な労力と時間がかかりますが、
不安や不満を抱える社員をそのまま放置することは得策ではありません。
基本的な対応Q&A でメッセージと対応方法のガイドラインを策定し、部署ごとに担当者を決めておくと良いでしょう。

こうして社員の不安には対応するものの、企業の感染対策は「リスクゼロ」を目指すのではなく「リスク軽減」の原則で進めるべきであります。
感染対策の方針は厚生労働省などの公的ガイドラインに則っていることが大事であり、それ以下でもそれ以上である必要もありません。
これが企業に対するマイナスの評価・評判が広まることによる経営リスクの軽減と法規リスクを回避する対策の大原則となります。

 

感染発生後のクライシスコミュニケーション
次に、社員の「感染発生」というクライシス発生後の対応です。
広報担当者などを通じて、以下のような情報が、社内・社外に迅速に、わかりやすく効果的に伝えられなくてはなりません。

●「感染発生」の経緯
●濃厚接触者の有無
●感染者の出社停止や社内の消毒等の対策
●今後の会社としての対応策

そもそもこの感染発生という情報を企業がどのように入手してどのように対応するのかというプロセスを整理しておく必要があります。
社員が検査を受けて陽性が判明した場合などでも、感染症法上にプライバシーを尊重するという規定があるため、厳密には会社への報告は本人に委ねられます。

社員に感染の報告義務を強制したい場合には、就業規則等の社内規定の整備が必要になるでしょう。
ただし、感染した社員が社内の行動から濃厚接触者を生んでいた可能性がある場合は、地域の保健所から会社に連絡が入ります。

その場合、
●感染者や濃厚接触者の名前や健康情報などの個人情報をどこまで開示するか?
●感染後に何日間欠勤させるべきか?
●欠勤時に給与支給する・しないの規定は整備されているか?
●感染者や濃厚接触者が差別的な待遇を受けないための対策は?

といった法的義務や就業規則などの社内規定の改訂がどこまで必要かについて分析する必要があるのです。

 

2.あなたの会社は危機管理マニュアルありますか?

2019年暮れより感染拡大を続けている新型コロナウイルスに関して企業の危機管理体制を調査したところ、
「危機管理マニュアルを元々用意していた」という企業は26%超、「対策本部や対策委員会を立ち上げた」という企業は約半数に上がりました。

新型コロナウイルスの対応に関する企業としての報道発表は、4割以上が「行った」と回答。
その内容は、従業員や顧客の「感染防止策」をまとめて企業方針として発表するケースが目立ちます。
そのほか、在宅勤務や時差出勤など「働き方の変化」や、「イベントの延期・中止」などを個別に発表する企業もありました。

 

“ウイルスから従業員を守る。”特別対策を実施中の大手・有名企業

【大手企業A】
いち早く在宅勤務&来訪客にも体温チェックなど徹底対応しています。
新型コロナウイルス対策で他社に先駆けていち早く動きました。
渋谷・大阪・福岡の拠点で、1月27日から2週間をめどに在宅勤務を実施。
なお、対象は全従業員の9割にあたる約4,000人です。2月10日からは、長期化に備えた体制へ移行。
在宅勤務体制を継続しつつ、出社が必要な一部の従業員には感染予防対策を講じたうえで出社を認めました。
さらに、オフィスの来訪客への対応も徹底しています。各拠点の受付にサーモグラフィーを設置。
体温が基準を超えた来訪客は改めて体温計で検温し、37.5度の基準値以上なら入室を控えてもらうように依頼しています。
他にも、マスクを着けていない来訪客には着用を要請したり、
オフィスのエレベーターのボタンを随時消毒したりと、しっかりした対策が話題になっています。

 

【大手企業B】
時差出勤&対象者はリモートワークの上限を解除
2月14日より、国内の全従業員約6,500人に対し、通勤ラッシュを避けて時差出勤するよう通知。
また、100人以上が集まる会議なども原則禁止としています。

同社はもともと、月5回までリモートワークできる制度がありますが、今回の新型コロナウイルス感染対策のため、妊娠中および就学前の子がいる社員や
、介護をしている社員、持病がある社員はリモートワークの上限を解除していています。
新型コロナウイルス感染拡大に向けた特別対策を実施する企業があるなか、
既存制度のフレックスや在宅勤務などで対応を行っている企業も実は多くあります。
例えば、パナソニックは中国事業所の休業延長やセミナーの中止はあるものの、
2月19日の時点で従業員に向けた特別対策は発表しておらず、既存制度のフレックスや在宅勤務などで対応しています。
もともと働く環境や制度が整っていると、有事の際にも従業員が守られやすいという良い例でしょう。

いつ何が起こるかわからない世の中、今回の新型コロナウイルス問題は、
企業の制度の見直しや緊急対策の取り方を見直す機会を与えてくれたのかもしれません。

 

3.危機管理に備える事業継続計画(BCP)

企業は自然災害や情報セキュリティに関する事故や攻撃などさまざまな脅威から会社・従業員を守らなければなりません。
経営者や情報システム管理者が中心となって行うべき対策の一つに、BCP(事業継続計画)があります。
BCPは、あらゆるアクシデント(不測の事態や脅威)に備えて、重要かつ優先度の高い業務から、
速やかに復旧・再開できるように策定しておく計画のことで、主に事業の早期復旧に重点をおいた内容となっています。
しかしながら、すでにBCPを策定している企業は全体のわずか15%程度。
策定していない理由には「策定に必要なスキル・ノウハウがない」
「BCPに関する知識を持った人材がいない」等中小企業にとっては非常に厳しい状況のようです。
緊急事態は突然発生します。その場合、企業の操業率が大幅に落ち、事業の継続が困難になることがあります。
中核となる事業が継続できないままでは顧客からの信用を徐々に失うこととなり、
有効な手を打つことがきでなければ、特に中小企業は、経営基盤の脆弱なため、廃業に追い込まれるおそれがあります。
また、事業を縮小し従業員を解雇しなければならない状況も考えられます。
感染症のパンデミック、テロ、リコール、大規模なシステム障害、セキュリティインシデントなどが起こった場合も同様です。
このような緊急事態が起こった際に事業への損害を最小限にとどめるよう、
企業の中核となる事業を継続もしくは早期復旧させるための方法や体制などを取り決めたマニュアル(=BCP)を策定したり、緊急時を想定した訓練をしたりすることをBCP対策といいます。

 

BCP策定・運用の流れ
では、BCPはどのように策定し、運用すれば良いのでしょうか。
BCPの策定・運用は大まかに下記のような流れで行われます。

 

1.中核業務ごとのフローを書き出す 契約の受注後お客様へ納品して代金回収するまでの業務フローを、
人やモノ・機械が介在するプロセスとして細かくフロー図にして描く。
このフローにはお客様や取引先などの利害関係者も入れます。
これにより、ムダやムラはないか、ムリが掛かっていないかなどの現状把握にもつながります。

2.中核事業がどれくらいの被害を受けるか考える
中核事業が地震や台風などによって実際にどのような被害を受けるか、
中核事業に必要な建物や情報システムなどの資源にどれくらいの影響があるかを具体的に想定します。
目標時間内に機能が回復するもの/しないものをできるだけ区別しておくことで、後述の代替案を検討できます。

3.損失を分析する
情報システムなどの資源を復旧するための費用など、損失を具体的に計算します。
中小企業の場合は、政府の金融機関や保証協会からの災害復旧貸付制度や保証制度などをどのように使えるかも検討しましょう。

4.事業継続のための代替案を用意する
情報連絡の拠点となる場所や、臨時の従業員、情報システムのバックアップなど、中核事業の資源の代替案を検討します。

5.計画を策定する
分析を元に対策を検討・実施します。対策には大きく分けて、避難計画の策定や従業員への周知といったソフトウェア面、
建物の耐震化やサーバーの二重化などハードウェア面の2つがあります。

6.従業員への教育、社外への周知
全ての従業員へBCPについて周知し、継続的に訓練を実施するフェーズです。
また顧客や協力会社、会社の所在地域の自治会などと、災害時の協力体制について話し合いましょう。
なお、BCPは運用と改善を繰り返し、随時最新に保つようにしてください。

 

BCP対策を行うメリット
・企業価値を高める・企業同士・地域で助け合い、信用を得ることができる
・中長期的な経営戦略へつなげることができる。

 

BCP対策を行うことによって、災害時やセキュリティインシデント発生時の事業継続・早期復旧に備えることができるほか、
企業価値の向上などのメリットも得られます。
BCPの策定・運用をするにあたっては、いずれのフェーズでも最終的には経営者の判断が必要です。
情報システム管理者は経営者にリーダーシップを取ってもらうよう、BCPの策定・運用を進めていきましょう。