ブル崩壊とその後の不況で、企業には厳しい時代が続いています。ことに公共事業を手掛ける会社は、国の公共事業費が年々削減されていく中、苦戦を強いられ続けています。
そんな中、他業種の成功事例を参考に、大きく事業方針を転換して業績をあげた会社があります。島根県松江市の島根電工です。
今回は、同社の成功の要因を探ってみます。

電気工事のお手本はクロネコヤマト?

島根電工は、創業以来公共の大型工事を中心に事業展開をしてきた会社です。売り上げの7割以上は大口の工事で占められていました。
しかし、バブル崩壊後の2000年代に、一般家庭向けの小口工事受注へと大きく方針転換をします。
島根電工の現社長の荒木氏は、大口工事が減少していく一方だった1990年代後半頃から、新しい仕事を生み出さなければ会社を維持できないと、危機感を抱いていたと言います。

荒木氏が着目したのが一般家庭向け電気工事でした。
競争が激しく、受注価格を下げなければならない大口工事と違って、家庭向け工事は適正価格での受注のため、1件の金額は小さくとも、利益は確実に出るからです。

この、業務密度を上げることで高収入を得ようという考え方は、ヤマト運輸が宅急便を始めた時の理念と同じものです。ヤマト運輸は、法人向けサービスから一転、家庭向け配送サービスに方針転換することで飛躍的に業績を伸ばしました。

島根電工が打ち出した、家庭の小口ニーズに応える「住まいのおたすけ隊」というサービスは、埋もれていた一般消費者のニーズの掘り起こしに成功し、多くのリピーターを獲得しました。
現在、同社の全体の売上高はバブル期の約3倍まで上がり、そのうちの約半分が一般家庭向け工事によって占められています。

電気工事のお手本は清涼飲料水メーカー?

小口工事受注への方針転換は、すぐさま軌道に乗ったわけではありません。
当時は業務手順が煩雑で、1件の工事について何度も依頼者宅を訪れなければならず、非効率的でした。これではコストばかりかかって利益も上がりません。

そこで「サットくん」という独自の小型ツールを開発し、営業担当者の業務の効率化を図りました。
これは現場で必要な情報を入力すれば、料金の見積もりや請求書の作成、集金まで一回で済ませられる携帯端末で、これにより飛躍的に受注件数が伸びていったのです。

この携帯端末を使った業務効率化のヒントは、社内の自販機の前で清涼飲料水メーカーの担当者が打ち込んでいた、携帯用のコンピュータ端末だったと言います。

働き方改革をいち早く導入

荒木氏は「企業の社会貢献は雇用にある」と言います。島根電工では、人材育成と福利厚生に非常に力を入れています。

たとえば新人研修は3年間で計10回、延べ45日間もの宿泊研修が綿密に設定されています。その後も職種や役職に応じて様々な研修が行われます。社外からは「会議研修株式会社」と呼ばれるほどです。

一方で社員満足度を高めるための施策も盛んです。
社員のコミュニケーションを円滑にし、働きやすい職場を作るための「明るい職場づくり運動」は1959年に始まった活動ですが、これは今で言う「働き方改革」の先駆的な取り組みと言えるでしょう。
総勢1,000名超が参加する「家族ぐるみ大運動会」など、役職に関係なく、人間同士のよりよい関係づくりを目指したレクリエーションを積極的に行っています。
他にもノー残業デーを週3日実施したり、プレミアムフライデーには飲食代4,000円を支給するなど、様々な取り組みをしています。

こうした熱心な施策もあり、同社での入社3年以内の新人離職率はわずか4%だといいます。

また、評価の仕組みとして、最終的な成果だけではなく、目標達成に向けたプロセスも評価する、育成重視型の人事制度を取っているため、社員が主体的、自発的に学習に取り組む風土が形成されています。
そのことが結果として、「もっと顧客のために出来ることはないか」という顧客満足度向上に向けた取り組みへとつながっているのです。

他業種の中にも変化のヒントはある

島根電工は過疎地に生きる企業ですから、市場の激しい競争に参入するだけではすぐに立ちゆかなくなります。むしろ、地域に密着し、顧客との関係を濃密なものに発展させることで埋もれていたニーズを掘り起こし、そこに付加価値をつけて新しい仕事を生み出していると言えるでしょう。
このような大口から小口重視へ、という発想の転換が、他業種の成功例をヒントにして行われたのは興味深いことです。

大手と言われる企業でも、同様の事例は見受けられます。
たとえばヤマト運輸は、海外の貨物配送会社の集配車から、小口宅配事業が成り立つヒントを得たと言います。
ニトリは、ホンダの自動車づくりの手順を家具の製造に取り入れた結果、不良品が激減し、業績が一気に伸びました。
どちらも、異業種、異分野のやり方にヒントを得て成長した実例です。
表面的にはまったく違う業種でも、プロセスの中で共通する要素を見抜くことができれば、様々なヒントを得ることが出来るのです。

まとめ

新しい業態を生み出したり、業務の効率化を促したりするためのヒントは、他業種からも見つけることができます。それをもとに、新たな事業展開へとつながっていく可能性もあるのです。
他業種だから関係ない、と考えるのではなく、何か共通する要素、類似した構造があるのではないかと好奇心を持って見つめれば、ヒントはいろいろなところに隠れていると言えるでしょう。