業経営において、設備資金や運転資金などのまとまった資金は、欠かすことができません。
しかし中小企業がこれらすべてを自己資金だけで賄おうとしても、それはなかなか困難なことです。
とはいえ、借金は出来るだけ背負いたくないと考えるのが経営者の常でしょう。世の中にはどこかしら借金=悪のように考える風潮もあります。
もちろん個人の家計の話ならば、借金はない方がベストです。ところが企業経営においては、無借金であることが必ずしもプラスとは限らないのです。
今回は、理想と考えられている「無借金経営」にひそむリスクについて見ていきたいと思います。

 

無借金経営のデメリット

「無借金経営」が理想と考えられる理由はいくつかあります。
たとえば、利息を払う必要がありませんし、借金の返済に追われることもありません。借金が無いことで得られる信用もあります。何より精神的に楽に過ごせます。
しかし、同時にデメリットも生じます。

1. 事業拡大が難しい
事業の拡大を図るときには必ず資金が必要です。そして、拡大、成長のチャンスというものはいつ訪れるかわからないものです。
突然の大型受注などを受けた時、手元に資金がないために投資出来ないとなると、せっかくのチャンスをみすみす逃してしまうことになりかねません。
無借金経営であるために、成長の機会を自ら閉ざしてしまう可能性もあるのです。

2.銀行からの信用を得にくい
銀行との信頼関係は、借入をしてそれを確実に返済していくことの繰り返しによって築かれていきます。取引実績のない会社に対する融資について、銀行は慎重にならざるを得ません。
無借金経営は安全性が高いため、信用を得やすいと思うかもしれませんが、急な借入の申し込みは、逆に業績悪化を疑われます。
銀行との取引を持たないということは、急に資金が必要になった時、借りたくても借りられないというリスクを背負うことになるのです。

3.経営スキルが上がらない
返済に追われない、というのが無借金経営のメリットではあります。
しかし、返済義務を背負うほうが逆に経営に良い影響を与える場合もあります。返済出来なければ倒産する、という緊張感から、生産性の向上や効率化に対して敏感、貪欲にならざるを得ないからです。
無借金経営ゆえの危機感の欠如が、逆に経営スキルの向上を妨げてしまう可能性もあるのです。

4.無借金でも手元にキャッシュがないと倒産するリスクがある
無借金だから倒産の危険性は少ない、と多くの人は感じるかもしれません。
しかし、たとえば急に資金繰りが悪化するような事態に陥ったとき、手元の資金だけで乗り越えることはまず不可能です。
「黒字倒産」という言葉を耳にすることがありますが、これはまさしく手元に現金がないゆえに起こる現象です。たとえ利益は出ていても、手元の現金が枯渇すると倒産します。無借金経営の場合に起こりがちなケースでもあるのです。

経営における借金のメリット

逆に、借入をすることで得られるメリットを考えてみましょう。
実は先に述べた無借金経営が抱えるリスクは、借入をすることである程度緩和させることが出来るのです。
主なメリットを挙げてみます。

1.銀行と信頼関係が築ける
借入、返済という取引を行うことで、銀行との信頼関係を築くことが出来ます。
銀行と良好な取引関係にあれば、必要な時にすぐに資金を借入することが可能になります。

2.成長のチャンスが広がる
手元にすぐに使えるまとまった現金があれば、成長のチャンスをつぶすことなく先行投資が出来ます。

3.倒産のリスクを回避できる
必要な時にすぐに資金を調達出来る環境にあることで、黒字倒産のようなリスクを回避することが出来ます。

4.経営スキルの向上
適度な返済義務を負うことが経営スキルの向上を促します。

5.節税になる
企業が支払う法人税は、金利を差し引いた後の利益に課税される仕組みになっています。つまり、借金に対する利息を払った分、法人税を減らすことが出来るのです。

株式ならば安心?

資金調達の方法として、借入の他に株式があります。
株式なら資金返済の義務がありません。借金をするよりリスクは低いように思われます。
ただし、株式の場合は株主の利益、意向が最優先されます。株主の権限が強くなると自由な経営は難しくなります。
また、資金の額も投資家の判断に左右されるため、必要な資金額が調達できるかどうかがわかりません。
株式は配当と株価の変動によって利益が左右されるため、出資者にとって確実性についてはリスクが高いと言えます。その分期待されるリターンも高くなります。
結果として、資金調達コストは借金よりも株式の方が高くつくことになるのです。

借り入れの際の注意点

以上のことから、借入は必ずしも悪いことではなく、経営上のメリットも多々あることがおわかりいただけたでしょう。
ただし、あくまで適度な借入が理想です。自社の資金繰りの状況を鑑みながら慎重に行いましょう。
借入をする場合に守るべき指標を、きちんと決めておくことが大切です。
たとえば、「借入額は営業利益の3倍まで」などと、借入限度額を具体的に定めたり、事業展開が予想通りに進まなかった場合に備えて、収支計画を複数パターン作っておくことなどです。

また、経営状態が良く、実質無借金経営が可能であるときに、あえて借入をしておくというのも一つの方法です。銀行との関係が維持できる上に、財務状態が健全な会社として認識されることで、今後の融資が受けやすくなります。

まとめ

理想と考えられがちな無借金経営ですが、やはりデメリットもあります。企業経営において、借金することは必ずしも悪いことではないのです。
しかし、過度な負債を負うことはリスクが高すぎます。
借金で得られるメリットについてよく吟味し、自社に最適な負債額を慎重に見極めたうえで借入を行いましょう。
大切なのは、借金に追われるのではなく、借金をうまく活用するという合理的な視点ではないでしょうか。