「PL脳」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
これは朝倉 祐介著『ファイナンス 思考』 という本の中で使われた言葉です。
「ファイナンス」などと言うと、とても難しいもの、あるいは銀行などの金融機関の中で使われるもので、実際の経営には役に立たないもの、と思ってしまうかもしれません。
しかし、変化の激しい現在の社会で会社を存続させ発展させていくためには、「 PL 脳」から脱却してファイナンス思考を身につけることが必要です。
ここでは、PL脳から脱却すべき理由とファイナンス思考についてご紹介します。

 

「PL脳」「ファイナンス思考」とは

「PL脳」「ファイナンス思考」とは、『ファイナンス思考』の中で使われた言葉です。

「PL脳」の「PL」 とは 財務三表の中の損益計算書= PL のことで、「PL脳」とはPLだけを重視する考え方のことを指します。
経営の中でも会計のみを重視したやり方のことです。
具体的に言うと、日々の売上から経費を引いて利益がどのくらい残るか、そこを見て経営を進めることです。

「ファイナンス思考」とは、 企業価値を最大にすることを目標に据える考え方です。
目先の売上や利益ではなく、将来的に会社を発展させていくために今どのような手を打つべきかを決定していくやり方です。
長期的な観点から、将来生み出すキャッシュフローを最大にするためにはどうすればよいのかを考えていきます。

PL 脳のどこに問題があるのか

「PL脳」とは、ある意味人間にとって自然な考え方です。毎日の生活の中でつける家計簿と同じ発想だと言えるでしょう。
また、日々忙しい中小企業の経営者にとって、目の前の数字以外のものを見るのはなかなか難しいのが現状ではないでしょうか。
社内の従業員にとっても、営業目標を立てる際には「前年比○%アップ」「シェア○%アップ」 というふうに立てるのが一般的です。
このような言葉を日々耳にしていれば、 PL 脳的な考え方が社内に充満してしまうのはしかたのないことです。

売上を最大限にして経費を最小限にすれば利益は最大になる。 シンプルですが最強の考え方に思えます。
この考え方のどこに問題があるのでしょうか。

今ある事業の売上を大きくし、利益を大きくして会社を大きくしていく。
それは、高度経済成長期の、国の経済全体が大きく発展している時代ならば有効でした。
また、安定した業界で、自社も十分な設備などを備えている場合は、それをうまく回していけば利益を上げることは可能でしょう。

しかし、現在は変化の流れが激しく、産業構造そのものが大きく変わっていきます。
そのような時代の中で目先の数字だけを見ていても、現状維持が精一杯、悪くすれば時代の変化に対応できず、じりじりと経営を悪化させてしまうことにもなりかねないのです。

また、会社の価値は必ずしも損益計算書に正しく表れているとは限りません。
M&Aの場合には、会社の価値を計算する際に、将来的なキャッシュフローの可能性を含めたファイナンス思考的な考察がなされるのが一般的です。
もし他社からM&Aの話があった場合、損益計算書だけを判断基準とすると、会社の価値を安く見積もってしまうことにもなりかねません。
M&Aをするしないは別として、自社の価値を正確に把握するためにも、ファイナンス思考は必要なのです。

ファイナンス思考を取り入れた経営を

ファイナンス思考とは、将来から逆算して現在するべきことを決定する考え方です。
将来のキャッシュフローを最大にするためには、今何をしなければならないのか、という視点で、次に打つ手を決めていきます。

そのためには、これまで自社を支えてきてくれた事業でも、だんだん売上が上がらなくなりお荷物化してきたものならば、整理する必要があるかもしれません。
そればかりか、現在まだ利益を出している事業であったとしても、先に手放しておいたほうがいいものがあるかもしれません。
新規事業に乗り出すために借金をする必要があるかもしれません。

このような施策は痛みを伴うものです。
人間はどうしてもこれまで慣れ親しんできたものに固執してしまいますし、新しいことに乗り出すには躊躇してしまいます。
しかし、会社を将来にわたって発展させるためには、このような「自然な」感覚を飛び越えたファイナンス思考が必要となるのです。

ファイナンス思考を身につけるには

『ファイナンス思考』の中で紹介されている中にコニカミノルタの例があります。
コニカもミノルタも、高度経済成長期はともにカメラメーカーとして大きく会社を成長させ、実績も認知度もある会社となりました。
しかし、その後の時代の変化の中で両社とも苦戦を強いられます。
その中で両社は経営統合を行い、自社にとってアイデンティティともいえたカメラ事業を手放し、事務機器やソフトウェアなどの部門で 再び会社を伸ばしています。
コニカミノルタは、同じ会社のまま別の会社に生まれ変わったとも言えますが、それを導いたのかファイナンス思考だったのです。

まずは『ファイナンス思考』のような本を読んで、ファイナンスの基本を身につけるところから始めてみてはいかがでしょうか。
ファイナンスの講座やセミナーなどを受けるのもよいでしょう。

企業の中で、ファイナンス思考を実行できるのは経営者を置いて他にはありません。
未来から現在を見る視点を持ちましょう。
未来の発展した会社の姿を思い描き、そのためには今、何の事業を拡大し、何に先行投資しなければならないのかを決定するのです。

まとめ

「PL脳」とは、目の前にある利益を重視するという、ある意味人間にとって自然な考え方です。
それに対してファイナンス思考とは、今目に見えていないものを優先する考え方です。
ファイナンス思考を持つことは、最初は難しく考えられるかもしれません。
しかし、 PL 脳から脱却して会社を大きく伸ばすためには、ファイナンス思考を持つことが求められます。
まずは会社のあるべき姿を考えるところから始めてみてはいかがでしょうか。