社とはいったい誰のものでしょうか。
もちろん、会社はまずは経営者のものです。
しかし、会社は経営者一人で成り立っているのではありません。 社員一人ひとりが自分の持ち場で働いて利益を出すことによって、会社は存続し、発展していくことができるのです。
しかし、残念なことに、社長の会社に対する思いと、社員の会社に対する思いには大きな違いがあるのが実際のところです。
ここでは、社員の会社に対する当事者意識を高めて、強い組織を作っていくにはどうしたらよいのかを考えていきます。

 

お金のためが会社のために?

お金で社員のモチベーションアップを図るということに抵抗を覚える経営者もいますが、高い成長を遂げたある経営者は、「動機が『不純』でも、結果が『純』ならいい」といいます。
その企業は2度「日本経営品質賞」を受賞し、現在は売り上げ75億円を超える優良会社です。
しかし、以前は低迷した時期がありました。
そこからの成長の背景にあったのが、お金を上手に社員のモチベーションアップに使うことだったのです。
この社長の薫陶を受けて成果を上げた経営者の一人が、アドレス株式会社の高尾社長です。

アドレス株式会社は不動産会社です。
不動産業は宅建資格保有者が必須の業態ですが、宅建の合格率は平均15%といわれており、アドレス株式会社でも数年間合格者が出ないという事態になっていました。
当時も社長は合格者に対して資格手当として月額15000円を2年間支給していましたが、それは成果につながっていませんでした。
そこで社長は、合格者に30万円(15万円×2)を支給することを提案したのです。
計算してみるとわかりますが、実は月額15000円を2年間受け取るほうが金額的には多くなります。
しかし、1度にもらえる金額が大きいほうが社員にとっては大きなモチベーションとなるのです。
制度を変更したところ、なんと11人が宅建の試験に合格しました。
社員にとってはお金がモチベーションとなったでしょうが、それが新たな仕事や会社の成長につながっていくなら、会社にとっても大きなプラスとなるものです。

経営者は社員のために上手にお金を使うことで、モチベーションアップと会社の業績アップにつなげることができます。
その実例として、上記実例企業の事例をもう一つ取り上げてみます。

企業は、ある時期まで営業社員やパートは顧客からの要望を会社のパソコンから入力していました。それを変更して、パートを含めて全員にタブレット端末を支給するようにしたのです。
タブレット端末を全員に支給するとお金がかかります。正社員はともかく、パートにまで支給する必要はないと考える経営者もいます。
しかし、実際にはタブレット端末を導入することで仕事の効率化が図られ、時間外労働が驚くほど減少しました。またパートを含めた離職率も大きく低下したのです。
パートの中にはこうしたIT機器が苦手という主婦もいますが、助け合う精神が生まれて使いこなせるようになりました。
また、こうしたIT機器を持つことで仕事へのモチベーションがアップした社員もいました。

こうした事例が教えているのは、最初はお金が目的でも、結果として社員の成長と業績アップにつながるならば、結果オーライだということです。
そしてそうした形でお金を用いることは、会社にとっても社員にとってもメリットのあることであり、最終的には経営者のメリットにもつながるのです。

中小企業こそ社員にお金をかけなければならない理由

注目すべきなのは、このように社員にお金をかけて成功しているのが中小企業であるという事実です。逆に言えば、中小企業こそ社員にお金をかけなければならないのです。
なぜなら大手企業のように優秀な新卒を大量にとれるわけではないので、現有の戦力を「使える社員」へと育てることが必須だからです。
そして社員を育てるためには、人事教育に加えてモチベーションアップがどうしても必要になります。そこにお金を費やすことをためらうべきではないのです。

「お金で人を釣る」というと聞こえは悪いですが、2つの事例を通して考えた通り、社員にお金をかけると、社員はそれに応じます。
成果を感じると社員は会社に愛着を持ちます。愛着が生じると自発的に社業に取り組み、自分にできることは積極的に行うようになります。そしてそれは新たな成果につながるのです。
またこうした愛着は離職率の減少として現れてきます。
また、それは会社の良い評判にもつながるので、今度はより優秀な社員を採用できるチャンスが広がるのです。

社員に正しい形でお金を使うと、成功の良い連鎖が生まれることになります。これこそがまさに生きたお金の使い方といえます。
社員のためにお金を使う経営者は、社員に対する信頼と期待を公に表明していることになります。それにより、社員との強い連帯感や愛社精神を育むことができるのです。
逆に「効率化」や「生産性アップ」という名のもとに社員に無理を強いるようになると、短期的には利益に結びつくように感じるかもしれませんが、社員のモチベーションも下がり離職率も高まるため、長期的にみると負のスパイラルを生み出してしまいます。

まとめ

「動機が『不純』でも、結果が『純』ならいい」という上記実例企業の社長の言葉は、人事に関する多くのことを教えています。
社員にとって真に魅力のある形でお金を使うならば、モチベーションアップにつながり、生きた形で資金を用いることができることや、中小企業こそ社員にお金を費やす必要があることなどに使いましょう。
社員は言うまでもなく会社の重要な経営資源の一つです。経営資源の価値を増大させ成果につなげるためには、お金をかけることを惜しむべきではないのです。