ある中小企業経営者がこれまでに指導した会社は720社を超えます。その中で倒産した会社はゼロ。さらに指導した5社に1社が過去最高益を上げています。そんなカリスマ社長のモットーは「お金は愛」。「社員はお金で釣るのが正しい」と彼は言います。それはいったいどういう意味なのでしょうか?
ボーナスカットからトップ社員へ?
ある企業では、ボーナスの額は完全な成果主義で決定します。
その企業で、過去に2人、ボーナスがゼロになった社員がいます。
Sさんは特に大きな失敗をしたわけではありませんが、彼の仕事で評価の対象となるものを計算したところ、ボーナスの金額が1,000円に満たなかったのです。現金で手渡しするのに、渡すべきお札がないので、仕方なくカラの封筒に名前だけ書いたものが渡されました。
もう一人、Fさんは社長のハンコを偽造したのです。
実例企業では様々な勉強会を開いており、勉強会に出席するたびに「100回帳」に社長のハンコを押すことになっています。ハンコが100回貯まれば旅行券5万円分と交換できる仕組みです。
Fさんはこのハンコを偽造し、自分の100回帳に押していました。
これは、もし刑事事件になれば有印私文書偽造という罪に問われ、懲戒対象になるレベルです。
しかし社内だけのことだったので、始末書4枚とボーナスゼロという処分で赦免されました。
ボーナスがゼロ、というのは、2人にとってはさぞ苦痛で屈辱的なことでもあったと思われます。
ところがこの2人はその後、会社を辞めるどころか非常に奮起して、次のボーナス時にはそれぞれA評価、S評価という大変な高評価を取り、それにふさわしい額のボーナスを手にしたのです。
一体、何が彼らを奮起させたのでしょうか。
社員のやる気を引き出す人事評価
ここで実例企業の給与体系と人事評価の特徴を少し見てみましょう。基本給は年功序列にしています。これは社員が今後の生活設計を立てやすくするためです。
また、職責に応じてグループ手当が支給されるので、勤続年数が短い社員でも、責任に見合った給料が貰える仕組みになっています。
その代わり昇進は実力主義、ボーナスは完全な成果主義です。
興味深いのは、これらの給与体系が社員に公開されており、社員はそれに当てはめてそれぞれ自分で自分の給与を計算するという点です。自分で計算することで、どうすれば昇給するのかということを具体的に考え、計画することが出来るのです。
実例企業では過去の失敗を評価に反映させることはしません。
結果さえ出せば次回復活できる仕組みになっているからこそ、先述の2人も辞めずに頑張って、トップの成績を残すことが出来たのです。
お金は社員への愛
実例企業の社長は「社員への愛情はお金で示しなさい」と言います。
金銭報酬が低いのに、自発的なやる気ばかりを求めても社員は動きません。
自分の頑張りに対して公平で正当な報酬が与えられるからこそ、社員はやる気を出すのです。お金は社員への愛なのです。
こう言うと、お金さえ与えておけば何とかなると思っているのか、と言われそうですが、お金に釣られて社員がやる気を出し、能力がアップし、業績もアップするのなら、それは生きたお金となります。
生きたお金とは将来のため役立ったり、使っただけの価値が生まれるお金のことです。有益な投資だと考えればいいでしょう。
社員の頑張りを、役職や学歴に関係なく、正当、公平に評価する。その評価をお金で示す。つまり社員への愛を伝える手段としてお金を使うのです。愛情を示されれば、社員はさらに頑張って業績を伸ばします。
昨今「やりがい搾取」について広く議論されています。これは、「やりがいがあるから」「将来役に立つから」という、曖昧な充足感ばかりを意識させて、低賃金、あるいは無報酬で働かせることです。しかしこんなやり方では人は定着せず、会社全体も疲弊していく一方です。
お金は社員のためにこそ使うべきです。社員のスキルアップのためには社員教育を充実させるべきですし、社員教育を受けることに対しても、しっかりと対価を支払うべきです。
報酬が出るからこそ、社員は社員教育を頑張り、結果、能力を伸ばしていくのです。
頑張れば頑張った分だけ正当な額の報酬を出してくれる経営者は、社員から信頼されます。
正当な評価は社員のモチベーションを上げますし、会社に対する社員の満足度も上がります。おのずと離職率は下がることになります。
「お金で釣る」というと、良くないイメージを抱かれがちですが、社員への愛情のバロメーターとしてお金を使うのだということを、経営者はしっかりと認識しておくべきでしょう。
まとめ
「お金で釣る」「お金は愛」というと、まるで金の亡者のような、よくないイメージを思い浮かべてしまいがちですが、そうではありません。社員を育て、やる気を引き出し、能力をアップさせるためにはお金を使うべきですし、社員の頑張りに対してしっかりと愛情を伝えるためにもお金を使うべきです。
そのように社員のために使ったお金は、必ず生きたお金となって、将来、会社のために役立つことにもなるのです。