中小企業の経営者は自分の会社の値段を知っておく必要があります。
それにより対外的な自社の位置づけを知ることができますし、有事に備えることにもなるからです。
経営の統廃合やM&Aは中小企業にとっても無縁の存在ではありません。
そうした事態に備えて、会社の値段を自分自身がまず把握しておかねばなりません。
企業の値段の計算方法とその活用方法についてこれから考えていきます。
我が社がM&A?
手塩にかけて育ててきた自分の会社に思いがけないM&Aの提案がなされるという事は、現代ではどの会社にとってもありうる事柄です。
特にここ最近の状況をみると「スモールM&A」が増加傾向にあります。これは売上一億円未満の比較的小規模な事業者を対象にしたM&Aです。
また、後継者に悩む中小企業経営者が、積極的にM&Aを持ちかけるというケースもあります。
つまり、M&Aへの備えはすべての経営者が行うべき経営課題なのです。
M&Aが提起された際には、双方が買取価格についての提案を行います。
通常は売却側企業がまず先に提案を行うことを考えると、自社のマーケットにおける妥当な値段を知っていなければ、交渉がスタートしないことになります。もし知らないまま交渉を進めると、非常に不利な条件で売却せざるを得ないことにもなりかねないのです。
また、実際にM&Aを持ちかけられる事態が生じるかどうかは別にして、自社の市場価値を知っていれば他社との交渉を行う際に役立つはずです。
自社の武器やストロングポイントを見極める点でも有用ですので、企業の値段を計算する方法を知り、実際に市場価値を把握しておく事は重要です。
企業の値段の計算方法は3種類
企業の値段を計算する方法としてよく取り上げられるのは主に次の3つです。それは、「コストアプローチ」「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」です。
「コストアプローチ」はバランスシートをもとにした計算方法です。純資産からその企業の値段を算定します。
ある時点での純資産を目安にするため、将来性や発展性については含められず、実際の価値と乖離することもあるため、M&Aの現場においてはあまり活用されることはありません。
「インカムアプローチ」は、一般的にM&Aの現場でよく使われる手法です。これは「DCF法」とも言われ、事業計画をもとに企業価値を算定する方法です。
将来性を加味した算定方法のため、コストアプローチよりも現実的な結果を得られるとして、実際の現場でもよく用いられているのです。
最後に「マーケットアプローチ」ですが、これは市場における実際の取引事例などを参考にして会社の値段を算出する方法です。自社の類似企業や同業他社の取引事例を参考にして算出するため、類似例が多くあるなら精度が上がるといわれています。
一般的な取引の中で良く用いられるのは、「インカムアプローチ」と「マーケットアプローチ」の二つですが、中小企業の経営者がより意識して活用すべきなのは「マーケットアプローチ」と言えます。
その理由について次項でさらに詳しく取り上げてみます。
中小企業にインカムアプローチが向かない理由
M&Aの現場で一般的によく用いられるのはインカムアプローチです。
DCF法は特に大企業の買収取引において用いられていますが、売却される企業の今後生み出す価値や利益に焦点をあてているため、具体的な買収のメリットを把握しやすいという良さがあるからです。
しかし、いくつかの弱点があるのも事実です。
例えばDCF法は事業計画に基づいた算出方法なので、事業計画がしっかりとしたもので客観的で現実的なものでなければ有用な結果を得ることはできません。
それに加えて、事業計画をもとに算出するためにはかなりの時間が必要になります。
また財務情報開示義務がない中小企業(非上場企業)を対象とした場合は、それによって得られた数字を検証する方法が乏しいというのもデメリットの一つです。
つまり時間的コストがかかることと信頼性を検証しにくいという弱点があるのです。
そのためインカムアプローチは大手企業のM&Aではよく用いられるものの、中小企業には不向きと言えます。
中小企業にはマーケットアプローチがおすすめ
では中小企業が自社の値段を知るために役立つのは何かといえば、マーケットアプローチです。
マーケットアプローチの一つに「マルチプル法」というものがあります。マルチプル法は、市場での取引動向から企業の値段を算出する方法です。そのためDCF法に比べて極めて短時間で計算ができるという点が最大のメリットです。
そしてマルチプル法で算出した数字が、長時間かけて計算したDCF法と同じレベルの数値であったというケースも多くあり、妥当な計算結果を得られることも実証されています。
マルチプル法の弱点としては類似事例が少ないと計算が難しいという点があります。ただ、これに関してもスモールM&Aの現場においては、「営業利益3年分」といった形で簡易的に算出することで対応できます。大企業と比較すると事業規模が限られた中小企業においては、こうした簡易的な形でも対応できるわけです。
マーケットアプローチはインカムアプローチに比べると、時間的コストが少ない上にある程度正確な結果を得られるため、中小企業の値段を知るうえでは非常にメリットがあります。またコストアプローチと比較しても、市場の現時点での評価と密接に関係しているため、現実の数値に近いと言えます。
まとめ
自社の値段を知ることは、将来のM&Aという事態に備えた現実的な対処法の一つです。ですから定期的に自社の値段を知るために計算することが大切です。
中小企業の場合は、大企業とは算出方法が異なり、現実的なのはマーケットアプローチということになります。この方法を用いることで、比較的簡単に自分の会社の値段を知ることができます。
自社の企業価値が向上していることを知れば、励みになりますし、価値が減少していれば危機感をもって改善にあたることもできます。
ですから会社の値段を知ることには、多くのメリットがあるのです。