ファブレス経営とは、自社で工場を持たない経営方式のことをいいます。
大企業で成功するビジネスモデルだと思われがちですが、実は大きな資本を持たない中小企業にこそ適した手法だということをご存知でしょうか?

 

ファブレス経営とは?

ファブレスとは、「fabrication=工場」「less=ない」という意味の言葉です。
製品のライフサイクルが短い半導体分野で生まれたビジネスモデルで、設計と製造を分業することで、コストを抑えた製品販売を実現しました。
ファブレスメーカーが製品の企画・設計を行い、製造は外部工場に委託。出来上がった製品を自社ブランドとして販売する形となっています。

ファブレス経営を行っている企業としては、アメリカではアップル、日本では無印良品が有名です。

アップル(Apple)
アップルは1996年頃経営危機に陥り、一度会社を離れていたスティーブ・ジョブズ氏がアドバイザーとして復帰。そしてサプライチェーンなどの改革を行った後、iPhoneやiPadなどの画期的な製品を市場に送り出し、V字回復を成し遂げます。
2000年代は設備投資費がほとんどない、典型的なファブレス企業として成功しました。
その後2010年代は精密工作機械や製造装置に投資し、それらを協力工場に貸し出すなどの形で、ブランドの価値を高めて利益を維持しています。

無印良品
1980年にスーパーマーケット西友のプライベートブランドとしてスタートした無印良品。
1990年から小売店舗を展開し、今や日本のみならず世界中に900店舗以上を持つブランドに成長しました。
早い段階から海外に製造委託するなど、日本国内でのファブレス経営の先駆けと言える会社です。
「ブランドではないブランド」という統一されたコンセプトの下、独自の販売網で無印ブランド製品を販売し、存在感とブランド力を保ち続けています。

ファブレス経営のメリット

製造を外部に委託するファブレス経営を行うことで、企業にさまざまなメリットが生まれます。

工場や生産ラインへの投資が不要となる
自社でイチから製造ラインを立ち上げるには、莫大な投資が必要です。さらに工場を運営するには、人件費や設備維持費などの固定コストもかかってきます。
自社で工場を持たないファブレス経営は、工場運営のリスクを抑えることができるのです。

市場の変化に柔軟に対応可能
現在の市場は変化が激しく、メーカーは常に市場のニーズに敏感でなければなりません。製造を外部委託することで工場運営コストなどの資金固定化がなくなり、生産数の調整や細かい設計変更など、市場の変化に対して柔軟な対応ができます。

商品開発やブランド形成に注力した経営
大規模な資金を必要とする製造ラインを持たないことで、会社の資金や人材を研究開発や設計に集中することができます。開発力や自社ブランド力が高まり、商品により高い価値を与えることが可能になります。

ファブレス経営のデメリット

ファブレス経営はメーカーとしていいとこ取りの手法に見えますが、デメリットもあります。

生産工場の選定
ファブレス経営では、品質保持のシステム構築が欠かせません。外注先の製造工程を細かくチェックすることができないので、粗悪な製品が世に流出してしまう可能性があるからです。
品質管理能力が高い製造会社を選びつつ、品質を保持できる施策を前もって行いましょう。

ノウハウの流出
製造を外部委託することで、設計などのノウハウが生産工場に流出するリスクが発生します。
生産委託先に独自の販売網がある場合、ノウハウが流出して模倣されてしまえば、自社ブランドとの差別化が難しくなってしまいます。
そういった事態を避けるためにも、販売網を持たず生産に特化した生産工場を選ぶのが望ましいです。

類似品との差別化
製品製造を外部委託するということは、逆に言えば、誰でも同じような製品を作ることができるということです。
自社製品の後に類似品が市場に出てくれば、顧客は新しさに惹かれて類似品に流れてしまいます。
類似品に負けない独自の市場の形成は、ファブレス経営が成功するか否かの鍵となります。

在庫リスク
製造委託する際には、ある程度のまとまった数量で発注する必要があります。
ある程度の数量を製造しないと製造工場にメリットがなく、数量を絞れば一つひとつの製造コストが上がってしまうからです。
外注先はあくまで製造のみを担当、自社で販売をしないといけないので、在庫のリスクは自社が背負うことになります。ある程度の数量をさばける市場が作れないと、製造した製品が在庫となって余ってしまうのです。

中小企業こそファブレス経営を上手に行おう

ファブレス経営を行うと、優れたアイデアがあれば、小さな企業やベンチャー企業でも、企業規模に関わらずヒット商品を生み出すチャンスをつかむことができます。

一定の数量を売ることのできる市場を確保できるマーケティング戦略と、ライバルに負けないブランド力が、ファブレス経営を上手に行うポイントとなります。
ファブレス経営というビジネスモデルならば、中小企業でも独自の創造性とアイデアで、資本力に頼らず事業を成功させることができるのです。

まとめ

少ない資本でもアイデア次第で大きなマーケティング成果を得られるのが、ファブレス経営の魅力です。
しかし、想定する事業がファブレス経営に向いていないこともあります。
マーケティングをしっかりした上で、独自のブランド力を発揮できる商品だと判断できれば、ファブレス化は中小企業にとってもメリットの大きいビジネスモデルであるとい言えます。
その際、製造品質やノウハウ流出のリスクを踏まえた上で、もっとも適した製造委託先を選ぶのが、成功のキーポイントです。