多くの業界で叫ばれる人手不足を独自のアイデアで克服した地方企業があります。
人材難の時代に、ある運送業界の会社が打ち出した採用手法から、「逆転の発想」で人事問題を解決するための考え方を学ぶことができます。
「どこにお金をかけるべきか」という重要な問題に関するヒントを得るために、この採用手法について考察してみてください。
運送業界で見られた実際の採用手法とは?
日本の労働力人口が減少の一途をたどっているのは周知の事実です。
また、労働に関する若い人たちの考え方も大きく変わってきています。
肉体労働や第一次産業はますます敬遠されるようになってきました。
ですから、業界によっては深刻な人手不足が既に明らかになっています。
運送業界もそうした人手不足に悩まされる業界の一つです。
しかし、アイデアと手法によって有用な人材を効果的に採用した比較的小さな会社があります。
モデルケースとして取り上げるのは、三重県を中心に営業している池畑運送株式会社です。
特筆すべきなのは、2013年からの5年間に実に77人もの新規採用を達成した事と、離職率が非常に低い点です。
運送業界は比較的離職率が高い業界の一つであるのは間違いありませんので、その中で離職率が低いというのは注目に値するポイントです。公式ホームページでも従業員の勤続年数を公表していますが、「長らく安心して働ける環境」があることを自賛できるほど離職率が低いのです。
人材を集めるためにこの会社が行ったことに注目してみてください。
通常であれば、人を集めるためには求職者に対するアピールを最大限行います。
つまり求人広告や宣伝費にお金をかけるのです。
実際、池畑運送でも以前はそのようにしていたそうですが、望む結果は得られませんでした。
そこで、次に池畑運送が行った採用手法は、それとは全く異なるアプローチでした。
社員紹介制度の報奨金を、効果が出る金額まで上げたのです。
それまでは一人につき紹介料として3万円を支給していたのですが、
最終的には一人当たり30万円を支給する制度へと変えたのです。
30万円という金額を聞くと、「退職者がすぐに出たら危険だ」と考える経営者の方もいます。
確かに、報奨金を上げるだけでは、退職リスクを大きく背負う事になりかねません。
そこで池畑運送では、分割払いで報奨金を支払う事によりリスク負担を軽減したのです。
入社したら3分の1、半年続けばさらに3分の1、勤続1年を超えたら残りの報酬金を支払う形にしました。
こうすることで紹介する側の社員も真剣に人を選びますし、
入社後もその人をケアするため退職者がほとんど出なかったのです。
不特定多数に向けた多額の広告費を支払うよりも、信頼できる社員の報奨金を増額して優先することで、
優秀な社員を集め離職率の引き下げにも役立ったこの採用手法は、非常に興味深いものです。
運送業界で見られた採用手法から学べる点は?
この運送業界で実際に見られた採用手法から学べる大きな教訓は、
人事にかけるお金を惜しむべきではないという事です。
池畑運送では広告費や宣伝費にお金をかけるよりも、既存の社員への報奨金を上げました。
そうすることで社員には、「社長は社員を信頼しており頼りにしている」という
メッセージが強烈に伝わったに違いありません。
それは社員のやる気や愛社精神を高めるものとなったことは容易に想像できます。
報奨金という費用に関しても、従来行う予定だった広告費や宣伝費をカットすることができたので、
大きな負担とはならなかったはずです。
そう考えると、人事採用に関する手法として、
十分に元の取れる「費用対効果」の高い戦略であることが分かります。
有名な戦国武将である武田信玄は「人は城、人は石垣」と言ったとされています。
強固な城も人がいてこそ成り立つのです。
同じように、会社も最新のIT機器を揃えてタワービルで仕事をしていれば、
人材を簡単に集められるというわけではありません。
人件費にしっかりと費用を投下し、社員一人一人を大切にする事で、良い人材は集まり、
会社は強固な「城」のような盤石の基盤を築くことができます。
人事教育や社員の福祉を無視した経営手法は成り立たないことを教訓として学ぶことができます。
社長の愛情は言葉や態度で十分に伝わると考える経営者もいますが、それでは不十分です。
一番見える形で伝わるのは「お金」です。
頑張った事柄への対価として給与をもらう事を考えると、
しっかりとお金という見える形で報いる事が、経営者の愛情や思いを伝える最大の方法です。
どこにお金を費やすかは経営者の手法や理念を明確に示すものです。
人事流動の激しい運送業界で成功を収めた池畑運送の採用手法からは、既存の社員に対して関心を振り向けていく事の大切さを教えられます。
社員に対してお金を費やすのが「もったいない」と感じているなら、社員の成長や進歩を見る事は難しいでしょう。
そして会社の成長も見込めません。
逆に社員への愛をお金でもしっかりと表す経営者こそ、労働力不足の現在求められているリーダーです。
人材難をなげく経営者が多くいますが、どれほど社員にお金を投資しているのかを考えてみれば、次に行うべきことが見えてくるはずです。
運送業界の採用手法から見て分かるように、同じ金額を投資してもアイデア一つで成果は何倍もの違いになります。
社員のやる気や愛社精神を高める事が出来れば、結果はおのずとついてくるのです。