新型コロナウィルスの感染が拡大するなか、世界経済は大きな打撃を受けています。飲食店や娯楽施設が閉業の危機に追い込まれるなど、戦後最大の事件と評する声も生まれています。中小企業が生き残っていくには、これまでとは違った知識や考え方も積極的に取り入れましょう。この記事では、緊急事態における「現金を保有すること」の重要性を解説します。
目次
新型コロナウィルスが招いた緊急事態!企業の受けるダメージとは
我慢の時期を迎えた経済界
2020年4月8日午前0時より、政府は新型コロナウィルス感染拡大に関する「緊急事態宣言」を発令し、東京都や大阪府などの7都府県が対象となりました。この宣言により、対象の都府県では、人と人との接触を平常時の8割にまで減らす対策が行われています。具体的には、企業や店舗に対する休業要請、テレワークなどによって自宅で仕事をすることの奨励などが挙げられます。ただ、これらの取り組みが広まることによって、中小企業には大きなダメージが広がると予想されます。そもそも、緊急事態宣言以前からも新型コロナウィルスによる自粛の風潮は高まっており、企業にとっては我慢の時期を迎えていたと言えるでしょう。
輸出業の大打撃
新型コロナウィルスが中小企業に与えた影響として、輸出業の売上下落が挙げられます。世界的なパンデミックが起こっている以上、海外への渡航は厳しく制限されるようになりました。その結果、海外輸出を前提として商品を生産してきた企業は顧客を失ってしまったのです。また、海外からの資材の調達に支障が生じ、製造業は痛手を被っています。資材が手に入ったとしても原価が高騰しているケースは多く、早くも2020年度は最終赤字の見通しにしている企業が出てきました。たたでさえ製造業は米中貿易戦争の影響で輸出品の売上が低迷していた時期に、新型コロナウィルスが追い打ちをかけた形です。
仕事ができなくなった企業も
また、ウィルスの感染防止には人の密集空間を避けることが大前提とされています。そのため、工場や店舗、従業員の多いオフィスなどは一時的な休業を決断しはじめました。一部の企業ではテレワークによる在宅勤務で仕事をこなしているものの、業種によっては従業員が現場に出てこなければ成り立ちません。また、テレワークに必要な設備を用意するだけの資金もなく、仕事ができなくなった企業もあります。新型コロナウィルスのワクチンが完成するのは2021年中、緊急事態宣言の継続期間は最大6カ月ともいわれており、その間、売上のない企業は倒産の危機に瀕しています。
自粛モードの影響
しかも、新型コロナウィルスの感染拡大が収束して緊急事態制限が解除されたとしても、日本経済が即座にV字回復する可能性は低いでしょう。なぜなら、ウィルスが猛威を振るった期間に「自粛モード」が蔓延してしまっているからです。企業が倒産したり事業規模を縮小したりすると、当然ながら多くの人々が経済的に苦しめられます。また「いつ自分がそうなってもおかしくない」という恐怖によって、消費者の購買意欲はどんどん下がっていきます。企業経営者も「新しい事業に進出したくない」「大きな買い物はできない」と消極策にまわることがありえるのです。
こうした消費者の意識はすぐに変わるものではありません。自粛モードは新型コロナウィルス収束後もしばらく続いていくと考えられます。製造業や販売業には未曾有の不況が到来する可能性すら出てきます。それに、自粛モードを引きずるのは企業側も同じです。BtoB型のビジネスを展開してきた広告業、IT企業などは、支出を削減したがるクライアントたちを大量に失うおそれが生まれます。そのほか、感染の恐怖が人々の意識に残っている限り、観光産業やレジャー産業も長期的に停滞しかねないのです。
なぜ現金が新型コロナウィルス以降に重要?
キャッシュフロー経営のメリットとは
キャッシュフロー経営の定義
新型コロナウィルス以降の苦境を中小企業が乗り越えていくためには、キャッシュフロー経営への切り替えがひとつの方法です。キャッシュフロー経営とは、現金収支に主軸を置いた経営スタイルのことです。経営者は十分な資金を確保しつつ「現金がどれだけ出入りするのか」という基準によってさまざまな意思決定を下していきます。ちなみに、キャッシュフロー経営とは異なる企業のあり方として、売上や利益中心のスタイルがあります。
平常時であれば、売上や利益で意思決定を行っていても支障を感じない企業は少なくありません。株式や不動産に価値を見出していた経営者は珍しくありませんでした。しかし、新型コロナウィルス感染拡大のような緊急事態では、現金の重要性が際立っていきます。不安定な情勢下では、株式や不動産の価値が急落するリスクと隣り合わせです。それに、現金を保有していることで得られるメリットはたくさんあります。
現金重視のメリット1.在庫削減
キャッシュフロー経営が非常時に向いている理由として、まず「在庫を減らせる」という点が挙げられます。利益重視の経営スタイルであれば、多少の在庫を抱えたとしても「今後の利益が見込めるのであればよし」と考えてしまいがちです。ただ、発注が単発的なものだった場合、出荷できなかった製品は過剰在庫として経営を圧迫します。こうした無駄なコストは、新型コロナウィルス感染拡大のような緊急事態だとますます企業の悩みどころになっていくでしょう。キャッシュフロー経営では、確実に現金を回収できるぶんだけしか製品を作らないので、過剰在庫を避けやすくなるのです。
現金重視のメリット2.資金繰り
次に「資金繰りの強化」も変則的な状況下では無視できないメリットです。通常、多くの企業が売掛金をあてにしながら資金繰りを行っています。つまり「あの顧客の売掛金はあの日までに回収できるだろうから、資金繰りは問題ないはずだ」といった予想のもとに経営者は意思決定を下していきます。
しかし、新型コロナウィルスの影響で世界経済が低迷するなか、想定外のトラブルで売掛金が回収できなくなるリスクは高まるでしょう。これまでは経営が安定していた取引先が急に倒産しないとも限りません。一方、キャッシュフロー経営では、売掛金が生まれたときではなく、現金を回収できたときを基準にして経営を進めていきます。万が一のトラブルに遭遇しても、保有している現金によって対処できるので、資金ショートに伴う黒字倒産のリスクを抑えられるのです。
現金重視のメリット3.信用が高まる
そして「社会的信用を高められる」のもキャッシュフロー経営の強みです。新たに金融機関から借り入れを受けたり、顧客と契約を結んだりする際、相手は企業の支払い能力に注目しています。言い換えれば「約束したお金をしっかり払ってくれる力」を見られていると言えるでしょう。新型コロナウィルス以降のビジネスシーンでは、支払い能力の審査がますます厳しくなっていくと考えられます。そのような状況で、利益や売上に主軸を置いた事業計画では、先方に信用されないこともありえます。
それに対し、現金に主軸を置いた事業計画は「確実にこれだけのキャッシュが手元にある」と証明できるので、金融機関や企業から好意的に受け入れられやすくなるのです。損益計算書よりも保有している現金をチェックしたがる取引先は多く、そのような場合、キャッシュフロー経営を行っている企業が有利になるでしょう。
「現金を保有する」とはどういうこと?
キャッシュフロー経営に移るためのポイント
回収と支払いのタイミング
これまで売上や利益重視の経営を行ってきた企業がいきなりキャッシュフロー経営に切り替えようと思っても、上手くいかないことがあります。キャッシュフロー経営の根本的な考え方としては「回収をできるだけ早くする」ことが大切です。利益重視の経営では売掛金が発生した時点で満足し、回収時期が遅くても気にしないことがあります。ただ、キャッシュフロー経営では、できるだけ多くの現金をすぐに使える状態で保有しておかなくてはなりません。すべての取引先に要求を飲んでもらうのは難しくても、回収できるぶんの現金は即座に支払ってもらいましょう。
逆に「支払いは遅くしてもらう」のが原則です。現金がたくさん手元にある限り、企業は赤字になりません。また、緊急事態でも資金ショートするリスクを遠ざけられます。「入ってきた現金は保有し続ける」のがキャッシュフロー経営の基本です。取引先が了承してくれるのであれば、支払いまでの期間を長くすることが肝心です。
借金は督促しても自社の借金はゼロに
そのうえで「債権は素早く回収し、無借金経営を維持する」ようにします。企業や個人にお金を貸している場合、回収に手間取っているケースは珍しくありません。分割で返済してもらっている際など月々の額が少なくなるので、つい軽く見てしまいがちです。しかし、回収しないまま放置していると損害が大きくなっていくこともありえます。期日を過ぎれば督促の連絡をし、返済日の約束を取り付けましょう。一方で、自社の借金はゼロに抑えることが大切です。借金がある限り、現金を確保しているとは断言できない状況が続きます。借金は可能な限り早く整理し、新たに借り入れを行わないよう意識します。
事前に現金の出入りを把握
ただし、現金よりも利益や売上中心の経営を実践してきた企業は、これらの取り組みに抵抗感を覚えてしまうことがあるでしょう。そこで、キャッシュフロー経営を実践する前に、過去の現金の出入りを把握するところから始めます。ここ1年のキャッシュフローを月ごとにまとめていき、分析すれば改善できる部分が見つけやすくなります。期日通りに回収できていない債権や支払い日が遅く設定されている取引先などを検証し、対応を考えていくのです。そのうえで、キャッシュフロー経営の計画表を作成し、全従業員で共有しながら仕事を進めていきます。
また、企業のキャッシュフローを振り返る過程では、経費の使い道も見直せます。ほとんど使われていない社用車、無駄遣いされている消耗品などを洗い出す絶好の機会です。不要な残業を繰り返している従業員を見つけ、指導するだけでもかなりの経費が浮きます。新型コロナウィルス関連の緊急事態では爆発的に売上を伸ばすことが難しいため、支出を少なくすることが肝心です。些細に思える経費でも積み重なれば経営に影響するので、真剣に節約を検討しましょう。
まとめ
新型コロナウィルスがもたらしたピンチを現金が救う
世界経済に新型コロナウィルスがもたらした大打撃は、長期的に続いていくと考えられます。市場の縮小化、自粛モードの蔓延などに対抗していくため、企業がキャッシュフロー経営によって現金を保有する意義はますます高まっていくでしょう。これまで利益や売上を重視していた経営者も、現金中心の考えに切り替えていくことが重要です。