る企業の新卒定着率は95%だと言います。1年目の離職率が、全国平均で15%と言われる昨今、離職者がわずか5%というのはなかなか驚異的なことです。その社長は新規採用の際「モノの収集癖がある人は採用しない」と言います。それはなぜでしょうか。人を採用する上で、社長が大切だと考えていることは何なのでしょうか。

「モノの収集癖がある人を採用してはいけない」のはなぜか

ある企業に勤務するI氏は大変な車好きで、車2台、バイク3台を所有していました。
給料のほとんどを車の収集に注ぎこむため、部下や同僚と飲みに行く余裕はありません。また、お金を使って新しいことを経験したりする余裕もありません。
同期が次々と出世していく中で、I氏はなかなか昇進出来なかったといいます。
これは何を意味するかと言うと、モノを集めることは、その人の経験値を増やしたり高めたりすることには直接結びつかないということです。

お金を使って遊んだ「経験」はその人の人生の財産となり得ますが、モノを集めることにいくらお金を使っても、価値のある「経験」は得られません。モノは所詮、手放してしまえばゼロになるだけです。
I氏の収集癖は、彼の人生を豊かにする「経験」とはなり得なかったわけです。
社内にこういう実例があったために、社長は、新規採用の際、趣味がモノのコレクションだという学生は採らないことに決めているといいます。

 

また、採用面接では、必ずひとつだけ超難問を入れることにしています。
たとえば「雨と霧と雲の違いは何か?」というような、正確には答えにくい質問です。ほとんどの人は答えられません。
これは、不合格になった人が、なぜ不合格になったのか、その理由をわからなくするための工夫です。
しかし、もちろんこの質問を出す意図は、正解を答えてもらうことにあるわけではありません。むしろ、この難問を正解した人でも不採用となります。この難問に答えられるような能力の高い人にとっては、逆にこの会社は物足りない、向いていないだろうと考えるからです。

採用のときに大切なことは価値観の一致

ある企業では「優秀な人材」は採用しません。むしろ、優秀(高学歴)な人材ほど採用しないと言っていいくらいです。企業の隆盛のために、即戦力となるような「優秀な人材」が求められている昨今、この企業のこの方針は矛盾して聞こえるかもしれません。

この例の企業が中小企業であることとも関係してくるのですが、大企業と違って中小企業では、各方面に戦力を分散して蓄えるような余裕はありません。常に総力戦です。そのために一番大切なのは、会社の方針を全員が共有し、価値観をそろえておくことです。
社員全員が同じ価値観を持っている、つまり全員で同じ戦い方が出来るということ、これこそが組織を強くする秘訣なのです。
したがってこの企業では、能力の秀でた「優秀な人材」よりも、自社の方針と価値観が合う人のほうを採用しています。優秀でも価値観がそろわなければ組織はバラバラになってしまいますが、逆にそれなりの社員ばかりでも、価値観がそろっていれば、組織力で戦えるからです。

 

採用の際、価値観の一致が大切である理由はもうひとつあります。それは、新卒の定着率を高めるためです。
会社の方針と新卒社員の価値観が合うということは、気が合うわけですから、入社後に、最初に抱いていた印象とのギャップに驚愕して退職、ということはほぼありません。
価値観が合うことを確かめるためには、様々なアプローチをします。説明会は本社で行い、業務内容や各種の数字、支店の様子なども積極的に公開します。自社のありのままの姿を見てもらいます。
内定者にはインターンを経験してもらい、業務の実地体験、先輩とのコミュニケーションなど、自社の文化に馴染んでもらう機会を設けます。そのうえでなお入社を希望する人材を採用するのですから、新卒定着率は高くなるわけです。

即戦力となる人材はいらない 入社後の社員教育で戦力を育てる

多くの企業が「優秀な人材」を欲しがっています。
しかし、社会経験のない学生が、社会に出て来ていきなり即戦力となることはありません。優秀な学生と、優秀な社員は違います。
たとえ、即戦力となりうるほどの優秀な人材がいたとしても、会社と価値観が合わなければ一緒に働くことは出来ません。組織が弱体化するだけです。

だからこそある企業では、優秀かどうかという部分については重視しないのです。
むしろ入社後にしっかりと教育するほうが合理的であり、意義のあることと言えます。
優秀すぎない、それなりの社員ばかりでも、社員教育を積極的に施すことで、全社員が同じように行動できる強い戦力に変わっていくことが出来るのです。
このような会社の方針に新卒社員が馴染めるかどうかはとても重要です。
そういう意味でも、採用の基準として、価値観が合うかどうか、会社と気が合うかどうかを見極めることが大切になってくるのです。

まとめ

上記の実例の企業も、数十年前までは新卒定着率が10%という惨憺たる状態でした。
学歴や資質の優劣ではなくて、気が合うか合わないかに焦点を絞って採用するようにした結果、高い定着率を誇るようになったのです。
定着率が高まってからは業績も二桁で伸びています。社員教育で、全社員を戦力化しているからです。
価値観が合うからこそ、同じように考え同じように行動できる。やはり採用において一番大切なことは、価値観の一致であると言えるでしょう。