員教育が大事なことはわかっていても、その実践に頭を悩ます経営者は少なくないでしょう。
こと中小企業においては、大手企業並みの社員教育環境を整えることはなかなか困難です。
何しろ中小企業は大手に比べると、教育者となり得る人間の数が圧倒的に少ないわけですから、社員教育に時間を割く余裕などない、というのが正直なところでしょう。
しかし、本来は中小企業こそが人材育成に重点を置くべきなのです。そうしなければ大手企業と張り合って勝ち残っていくことは出来ません。
今回は、中小企業における上手な社員教育のしかたについて考えてみます。

大手企業と中小企業では社員教育も違う

大手企業と中小企業の社員教育環境には、明確な違いがあります。
まず大手の社員は、「後輩」「同期」「先輩」「上司」さらには「人事部」という、種類の違う教育者に常に囲まれた環境に置かれています。
「人事部」からはビジネスマナーやビジネススキルについての研修が提供され、「上司」や「先輩」からは社会人としての常識や業界の慣例について教育されます。「同期」や「後輩」とは競い合っていく中で、対抗心や向上心が育まれます。
種類の違う教育者に囲まれ、知らず知らずのうちにでもそれなりのスキルを身につけていくことが可能です。

一方の中小企業はどうでしょう。
まず「人事部」がないですし、「後輩」も「同期」もごくわずか、あるいはいない場合もあるでしょう。企業の規模によっては、教育者が経営者一人のみという場合もあり得ます。つまり教育者が極端に少ないのです。
こうした環境の中、中小企業の新入社員が自力で成長していくのはなかなか難しいと思われます。
企業にとっても、大手企業と同レベルの社員教育を行うのは困難だと言えるでしょう。

中小企業にこそ社員教育が必要な理由

中小企業が成長していくための秘訣は何でしょうか。それは一にも二にも、まずは人材育成です。
そもそも優秀な人材というのは大手企業に行ってしまっていますから、人材確保という時点で、すでに中小企業は大手に比べて不利な環境にあるのです。
ですから、まずは採用した人材を教育し育てることが、中小企業の最重要課題だと言ってもいいでしょう。
入ってきた社員を継続的に教育し、勉強させ続けていれば、スタート地点では大手企業の社員に劣っていたとしても、やがては他に替えられない「人財」へと変わっていきます。

しかし多くの中小企業では、まず目の前に取り組むべき業務があって、その作業のために採用するというパターンがほとんどです。そのため、採用したらひたすら作業を教えます。
けれども何のための作業かを理解しないままでは社員はいつまでも成長しません。仕事の本質を理解せずに作業のみを覚えても、その社員が会社を成長させていく原動力にはなり得ないのです。

会社を成長させていく社員を育てるには、会社の価値観、方針をしっかりと体得させることが必要です。
中小企業は大手企業のように多方面に専門職をおいて業務をバックアップしていくことは出来ません。
だからこそ、社員全員が同じ価値観、同じ方針のもと、同じ方向に向かって仕事が出来るように、環境を整える必要があります。そのための社員教育なのです。
会社の価値観=社長の価値観なのですから、社員教育の一番の適任者は社長です。社長自らが積極的に社員教育に関わることが、中小企業における社員教育の在り方だと言えるでしょう。

社長が行うことが社員教育を成功させる秘訣

「教育」とは本来時間がかかるものです。
さして優秀ではない社員を教育するとなれば、時間がかかるのは尚更です。加えて、1回言っただけで分かる人間というのも、そうそういるものではありません。
社長が社員教育を担うにあたって、「これくらいは普通だろう」という漠然とした期待や理想などが心の中にあると、それが邪魔をして上手な社員教育を行うことが出来なくなります。
まずは「出来ないのが当たり前」「時間がかかって当たり前」と腹をくくってみてください。同じことの繰り返しであっても、その都度その都度、腹を立てずに教え込む忍耐と、いい意味での諦めの悪さというものが必要です。

一方、教わる側にとっても、モチベーションの維持というのは困難を伴うものです。
人間は基本的に、自主的に勉強しようとするものではありませんから、社員に勉強し続けてもらうためには、勉強せざるを得ない「仕組み」を作ることも必要になります。
たとえば「勉強すればお金がもらえる」という仕組みです。あるいは「勉強しなければ賞与が減る」というのでもいいでしょう。不純な動機に思えても、その結果勉強し、社員の質が向上していくのなら、それこそが価値のある成果なのです。
社員教育を行うにあたって、お金を出し惜しみするべきではありません。「時間」も「お金」もかかりますが、これも会社の未来に向けての投資なのだと考えましょう。
強制的に勉強させるための「仕組み」を作ること、根気強く繰り返し教え込むこと、社長の価値観を浸透させること、そのための「時間」と「お金」を惜しまないこと、こうした地道な社員教育こそが、大企業に劣らぬ「人財」を作り出す秘訣と言えるでしょう。

まとめ

優秀な人材を確保しにくい中小企業においてこそ、社員教育は必要不可欠です。
社員教育は社長の大切な仕事と考え、時間とお金をかけて、積極的に社員教育に取り組みましょう。手間暇をかけて繰り返し教育し続けることで、やがて大手企業に劣らぬ優秀な人材が育っていきます。
人材が育てば会社の業績も正比例して上がっていくものです。社員教育は会社の成長に欠かせぬ投資だと言うことができるでしょう。