営における大きな課題のひとつは「資金繰り」でしょう。特に、社会情勢や市場ニーズが目まぐるしく変化するなかで会社を成長させていくためには、長期的な視点から資金繰りを考える必要があります。経営を安定させたいなら「実質無借金経営」を目指してキャッシュを増やすのはいかがでしょうか。今回は、実質無借金経営について、内容やメリット、方法などを解説します。

 

実質無借金経営とは

そもそも、実質無借金経営とはどのような経営方法なのでしょうか。実質無借金経営に関して説明する前に、まずは「無借金経営」とは何かを確認しておきましょう。通常、会社にはさまざまな借金があります。たとえば、支払手形や買掛金、給与未払い分などです。これらの無利子の借金は、経営に大きな影響は与えません。しかし、銀行からの借り入れや社債など、利子を支払わなければならない借金もあります。無借金経営とは、そのような有利子負債がない経営状態のことです。

一見、借金がないのは良いこと、つまり無借金経営は理想の経営状態であると感じるかもしれません。有利子の借金は、負債が多いほど利子の支払いが多くなり、経営を圧迫するからです。また、たとえ利益を上げても、多額の利子の支払いで経営が悪化したり、場合によっては倒産(黒字倒産)してしまったりするリスクもあるでしょう。借金がなければ経営は安定します。借金や利子の支払いに追われずに済むのは安心ですし、自己資本の比率が高くなるというメリットもあるでしょう。

しかし、無借金経営には、デメリットやリスクもあります。たとえば、多くの場合、有利子負債を完済するためには手元のキャッシュを減らす必要があり、大きなリスクが伴います。会社の存続は資金の調達ができるかにかかっており、手元のキャッシュが少ないと、イレギュラーな問題が起こった場合に資金繰りに行き詰ってしまう可能性があるからです。明日何が起きるかは誰にもわかりません。ちょっとしたミスが原因で顧客が離れたり、競争環境が変化したりすることは十分考えられるはずです。また、自然災害や世界的な流行病などによる状況の変化や、不況の影響を受けてしまう可能性もあるでしょう。会社は、借金があっても倒産しませんが、必要資金が調達できなくなると倒産してしまいます。

このような点をふまえて注目されているのが実質無借金経営です。実質無借金経営とは、有利子負債を抱えていますが、それを十分に上回るキャッシュ(現金や預金、短期の有価証券など)を保有している状態を指します。つまり、有利子負債を完済するだけのキャッシュがあるのですが、あえて完済しないでいるのです。ただし、有利子負債額を差し引いても、経営に必要な運転資金が十分に残るほどのキャッシュを蓄えている必要があります。借金があるとマイナスのイメージがあるかもしれませんが、借りたお金が手元にあっていつでも返せるのであれば“実質”借金がないのと同じ状態です。

たとえば、必要経費が毎月300万円かかるとしましょう。運転資金はどの程度確保できていれば安心でしょうか。たとえ無借金経営で借金が全くなくても、預金残高が500万円しかなければ、もし何らかのアクシデントにより売り上げが回収できなかった場合、2カ月も持ちません。しかし、1000万円の借り入れをしていても預金残高が500万円あれば、会社の預金残高は1500万円です。借り入れ分の1000万円はいつでも返せるため、実質無借金経営です。これなら、万一売り上げがなくなっても、5カ月近く会社を続けることができますし、その間に経営を立て直すことも可能でしょう。もちろん、融資額に関して銀行にすぐに交渉することも可能です。

つまり、借金がなく現時点での経営が安定しているのが無借金経営、借金はあるものの資金繰りが安定しており将来のリスクが少ないのが実質無借金経営と言えるでしょう。


 

実質無借金経営のメリット

多くの企業が実質無借金経営に注目し、能力があるのにあえて有利子負債を完済せず利子を払い続けるのには、ほかにも理由があります。実質無借金経営は、銀行との信頼関係を築きやすいのです。会社を経営していると、どうしても資金が必要になり、銀行からの借り入れを検討する場面があることでしょう。たとえば、事業を始める前や直後、設備投資にまとまったお金が必要になる場合や事業を拡大したいときなどがそうかもしれません。トラブルや不況などの影響を受けて一時的に売り上げが減ってしまうことも考えられます。また、大口の注文が入ったときなど、資金さえ調達できればチャンスを活かしてすぐに行動したい場合もあるでしょう。

そのような場合、新たに銀行に融資を頼むと、どれほどの時間と手間がかかるでしょうか。銀行側は、会社の決算書などから経営状態を分析したり、面談などを通して情報を収集したりします。また、さまざまな書類を作成し、融資について審査も必要です。融資を受けられるころには問題が悪化して手遅れになっていた、あるいは競合企業に先を越されてしまったということにもなりかねません。そもそも、融資を受けられるとは限らないでしょう。

全く取引実績のない会社に対しては、たとえ経営が安定しているように見えたとしても、返済能力に対する信用がないため銀行側は融資に慎重になるからです。無借金経営だからといって銀行は簡単に信用してくれません。むしろ、急な融資の申し込みは、業績悪化を疑われてしまう可能性があります。また、どこの銀行にも融資をしてもらえなかったのではないかと疑われてしまうかもしれません。融資を受けられたとしても、希望額より低い金額しか認められないケースもあります。

しかし、もともと借り入れがあり、良好な関係が築けている銀行からなら融資を受けやすいでしょう。銀行との信頼関係は、定期的に借り入れをし、確実に返済することの繰り返しで築かれていくからです。会社の経営状態が良ければ、銀行側から融資を勧められる場合もあるでしょう。また、信頼関係があり銀行側にとって良い顧客であれば、より低い金利で融資を受けられるかもしれません。さらに、銀行の融資を受けていれば、コンサルティングを受けることもできます。新たな顧客を紹介してもらったり、経営状況の相談に乗ってもらったりできるでしょう。借り入れは困ってから頼むのでは遅いのです。いざというときや資金繰りに困ったとき、すぐに相談できる相手がいる、融資してもらえるというのは大きな安心につながりますし、借入時の利子は「会社の保険」「安心料」とみなせます。

また、実質無借金経営は節税対策にもなります。法人税は、利子を差し引いた後の利益に課税されるからです。つまり、利子を支払ったぶんだけ法人税を減らせるのです。さらに、あえて借金を残すことで返済しなければならないプレッシャーがかかり、経営スキルの向上につながるかもしれません。そして、資金繰りの心配がなくなれば、より本業に集中しやすくなるはずです。


 

実質無借金経営を成功させる方法

実質無借金経営を成功させるためには、まず会社の経営状態を正確に把握することが重要です。家賃や光熱費、通信費や人件費、消耗品などの必要経費を把握し、運転資金を確保することを目標にしてください。もちろん、起業直後や事業を拡大したばかりなど、次のステージへ進むために借り入れを増やさなければならない場合があります。そのような場合には、経営状態が上向きになり、有利子返済を完済できるほどのキャッシュが貯まってから、実質無借金経営に切り替えるとよいでしょう。自己資本の比率が低くなると、スムーズな意思決定ができなくなったり、経営状態が他者の影響を受けたりしやすくなります。自己資本比率は、適正な比率で維持するようにしましょう。

また、貯蓄を優先しすぎるのも注意が必要です。資金繰りを安定させ、会社の利益を上げるという実質無借金経営の目的を忘れないようにしましょう。会社が安定し、成長していくためには、長期的な視点で経営計画を立てることが大切です。会社としての目標やビジョンを明確にし、適切な投資を行ってください。最新の設備を導入して業務効率を上げたり、新入社員を採用して教育したりするための投資は、将来の企業力を左右します。キャッシュを増やすことを重視しすぎて資本効率を悪化させるよりも、融資をうまく活用する方法を考えてみましょう。

実質無借金経営を目指すなら、取引をする銀行選びも重要です。有利子負債を抱えたままキャッシュを増やすので、金利が高いと支出額が大きくなり、負担も大きくなります。たとえば、3000万円の借り入れをするとしましょう。金利が2.5%の場合、月50万円ずつを5年間支払うとすると、利子の支払合計は187.5万円です。しかし、金利が1.5%なら支払金額は112.5万円となり、75万円も少なくなります。金利が低ければ利子分を含めた支払総額が少なくなり、そのぶんだけキャッシュを増やせやすいでしょう。

しかし、金利だけでなく銀行の姿勢や特徴をしっかり見極めることも大切です。公的金融機関を含めた複数の銀行と取引するとよいでしょう。複数の銀行と取引することで、金利や条件に関して銀行間で競争させることができますし、不測の事態に備えたリスクヘッジも可能になります。それぞれの銀行と定期的に接触し、少額の融資でもしっかり対応してくれるか、親身に相談に乗ってくれるかなどを確認しておきましょう。各銀行の強みを把握したうえでメインバンクを選んでください。

一般的に、信用金庫や信用組合は、相談に乗ってくれたり少額の融資にも対応してくれたりしますが金利は高めです。地方銀行は、信用金庫よりも大きめの融資に対応し、保証付き融資に強いです。金利は信用金庫よりも低い傾向がありますが審査は厳しくなります。メガバンクは資金量が豊富で大口の融資に強いのが特徴です。金利は信用金庫や地方銀行よりも低い傾向がありますが、審査が厳しく小口の融資には積極的ではありません。自分の会社の規模や必要な金額に合った銀行を選びましょう。いま必要な資金が手に入るかだけでなく、この先も会社を支援してくれるかという長期的な視点で選ぶことが大切です。


 

まとめ

実質無借金経営でリスクの少ない経営を目指そう
実質無借金経営は、ビジネスチャンスを逃さないためや、いざというときの備えとして有効な経営手法です。経営が安定するだけでなく資金繰りの心配もなくなるため、会社を成長させることに集中できるでしょう。利子は会社の保険とみなしてください。借り入れはキャッシュを増やしたり銀行との信頼関係を築いたりするための手段として上手に活用し、リスクの少ない経営を目指しましょう。