社の経営において何よりも重要なことは、お金の動きを管理することです。利益がなければ会社が倒産してしまうことはいうまでもありませんが、いくら帳簿上で利益があっても、資金繰りがうまくいっていなければ会社の経営は成り立たないからです。

 

実質無借金経営の定義とは?どのような状態を指すのか

一言でまとめると、「無借金経営」とは企業に有利子負債が一切ない状態を指します。ここでいう有利子負債とは、返済をする際に利子をつけなくてはいけない借り入れのことです。たとえば、銀行から融資を受けたとすれば時間とともに利子が発生します。そして、有利子負債が多くなればなるほど、企業の財務体質が優れているとはいえなくなります。一時的に黒字が出ているように見えていても、ふくらんだ利子を支払うことで経営が悪化する可能性を孕んでいるからです。そこで、財務の安全性を示すために無借金経営を目指す企業が増えてきました。

あくまで「有利子」という条件がついているのは、借金をまったくしない形で経営を続けるのが至難の業だからです。企業が存続する限り、細かい借金はさまざまな場面で発生します。支払手形や買掛金なども借金に含まれるでしょう。また、給与の未払い分も厳密には「従業員からお金を借りている」とみなされます。完全な無借金経営は不可能です。ただ、無利子の借金であれば経営に大きく影響することがありません。そのため、無借金経営では有利子負債のみが問題とされます。

無借金経営が実現すると、支払いを意識して経営を続ける必要がなくなります。営業利益が黒字になっているにもかかわらず、有利子負債のせいで赤字に変わってしまうような事態を防げるのです。それに、自己資本の比率が高くなるのもメリットです。財務諸表の安心感が高まるので、株主やスポンサーなどに堂々と情報を公開できます。

それでも、かねてから銀行などとやりとりをしている企業では、有利子負債をゼロにすることが困難です。そこで、「実質無借金経営」という新たな基準が生まれました。つまり、有利子負債を抱えていてもそれを上回るキャッシュを確保できているのであれば、実質的には無借金経営が保たれているとする考え方です。

なお、ここでいうキャッシュとは現金だけでなく有価証券なども含まれます。有利子負債を返済しようとすればいつでもできる状態が、実質無借金経営の定義です。そのかわり、単に返済さえできればいいというわけではなく、有利子負債がなくなったとしても経営に必要な最低限のキャッシュが残されていなくてはなりません。いわば、「会社の保険を残す」ことが、実質無借金経営を裏付けます。

実質無借金経営の企業は着実に増えてきており、2017年6月12日の日本経済新聞では「上場企業の58%が実質無借金経営」と報道されました。同時に、自己資本率の向上も観測されています。日本企業が安定した長期的な成長を目指すにあたり、実質無借金経営は非常に重要な指針のひとつとなっています。無借金経営を志している企業も、いきなり有利子負債を完済して預金を減らすリスクなどを考慮すれば、とりあえずは実質無借金経営を目指す場合が少なくありません。そのうえで、様子を見ながら無借金経営に移行したり、そのまま実質無借金経営を続行したりしています。


 

実質無借金経営のメリット!多くの企業が目指している理由

まず、「銀行との関係性を保てる」ことが実質無借金経営のメリットです。単純に無借金経営を目指すのであれば、利益を得たらすぐ有利子負債を返済するのが基本です。しかし、有利子負債によって金融機関との関係を維持できる側面もあるので、完済してしまうと企業側のデメリットも生まれてしまいます。銀行に対して積み上げてきた信用がリセットされてしまい、再び融資を頼みに行くときも一から交渉しなくてはいけません。資料を作成したり、銀行の担当者と面談したりといった工程を繰り返すのはたいへんな手間です。

実質無借金経営では銀行とのつながりを切らなくても、財務会計を安定させられます。もしも資金繰りに困る日が来た場合、銀行はとても大切な融資元となる可能性があります。一時的に経営状況が上向いていたとしても、接点は維持しておきたいところです。実質無借金経営ならば、企業にとっての緊急事態にすぐ、銀行へと相談できる余地を残せます。

次に、銀行と接点を保つことに派生して「コンサルティング機能を受けられる」のも大きなポイントです。多くの銀行は利益拡大を目的として、取引のある企業に新たな顧客を紹介するなどの活動を行っています。また、経営状況についての相談もできますし、ときには自社のアンテナだけだと知りえなかった情報まで仕入れられます。大企業並みの宣伝力や信用のない中小企業からすれば、銀行のコンサルティング機能は積極的に受けたいサービスです。実質無借金経営で銀行ともつながっておくと、融資先へのアプローチに関する恩恵を受け続けられます。

さらに、自己資本比率が高まることで経営の選択肢が増えるという面も生まれます。融資に依存した経営を続けていると、金融機関やスポンサーが撤退、倒産したときに状況が急変するでしょう。営業利益は悪くなかったにもかかわらず、経営が破綻するような事態を招きかねません。また、新たな事業に投資をしようとしても、資本を外部に委ねている以上、迅速な決定を下せなくなってしまいます。その結果、事業のタイミングを逃して企画が頓挫することもありえるのです。

自己資本比率の高い企業は、お金が必要なときに自社から調達できます。そのため、事業や設備の投資をスピーディーに行い、能動的な経営戦略を立てられるのです。しかも、帝国データバンクの評点も高くなるので企業の社会的な信用度が上がります。株価の売上や有能な人材の応募、取引先との関係性強化などに影響し、競合他社から抜きん出た存在になれます。

経営者からすれば、「プレッシャーから解放される」のも実質無借金経営の魅力です。もちろん、無借金経営でも月々の支払、決算などの悩みが軽減されます。ただ、金融機関などの融資元との関係が希薄になっている以上、問題が起きても自社の責任で解決しなくてはなりません。金銭的なサポートはおろか、気軽に相談できる相手もいないので経営者にのしかかるプレッシャーは甚大です。最悪の場合、経営者個人の財産を切り崩すなどして、問題に立ち向かわなければいけないケースも出てきます。

実質無借金経営なら負債を気にせずに過ごせるだけでなく、銀行などの相談相手もいます。トラブルが起きたらすぐに対処できるので、精神的にはかなり楽です。

 

実質無借金経営を実現させるために必要な心得とは

まず、「運転資金」は常に確保しておきます。運転資金とは、企業が経営活動を進めるうえで必ずかかってくる経費にあてるお金です。光熱費やインターネット料金、家賃から人件費、消耗品などの雑費まで、さまざまな費用が運転資金に該当します。実質無借金経営では、有利子負債を返済しても口座に運転資金が十分に残されていなくてはなりません。運転資金を差し引くと預金がマイナスになったり、余裕のない額しか残らなかったりすれば実質無借金経営が成立しているとはいえないのです。

次に、金利の見極めです。企業によっては無借金経営よりも実質無借金経営のメリットを選ぶことが珍しくありません。すなわち、あえて有利子負債を抱えたまま、キャッシュを増やしていく方法で実質無借金経営を続ける方法です。ただ、この選択で損をすることもありえるので慎重に検討しましょう。なぜなら、負債の金利が高すぎると、実質無借金経営にこだわることで支出額が大きくなってしまうからです。それならば、有利子負債を完済してしまい、無借金経営に切り替えるほうが得になる可能性もあります。

もちろん、日本銀行をはじめとする多くの金融機関では金利を低く設定する傾向が顕著となってきました。銀行からの有利子負債であればそれほど負担にならず支払うこともできます。融資元や企業の収益などによって判断基準は変わるので、利子を払ってまで関係を保つべき相手なのかどうかしっかりと考えるようにします。

そして、自社の状況を的確に見極めることも肝心です。確かに、実質無借金経営には多くのメリットがあります。ただ、全ての企業が無理をしてでも行うような経営体制ではありません。むしろ、状況によっては借り入れを行って次のステージへと進まなくてはいけないときもあります。代表的なのは、「起業の直前と直後」です。十分な自己資金がなくても起業を目指しているのであれば、銀行やスポンサーからの融資を募るのも一般的な考え方です。

さらに、起業してからしばらくの間は利益が入ってこないので、自己資本だけでは人件費や仕入れの支払いをできなくなることもあります。こうしたときにも、有利子で融資を受けて経営をまかなっていく意識は必要です。起業から時間が経過し、経営状況が上向いて有利子負債を返せるまでのキャッシュが貯まったら実質無借金経営に切り替えてみるのもひとつの方法です。

実質無借金経営の企業では資本効率が悪くなる問題も起こっています。キャッシュを貯蓄するのに注力するがあまり、投資にお金を使わなくなる問題です。企業が成長を止めないためにはそのときどきでの投資が欠かせません。その点を意識しながら、適切な場面でお金を使うように心がけましょう。

具体的には、「設備」や「採用」は実質無借金経営をするうえで考えなければならないポイントだといえます。パソコンやシステム、グループウェアなどの最新設備は業務効率を高めるために大切な投資です。また、営業職に社用車をあてがうことで、1日あたりの訪問件数を増やせるなどのメリットが生まれます。それに、企業が長期的に発展するには新入社員を定期的に迎え入れ、教育をほどこすことも大切です。自社にかけているスキルを早急に補うなら、中途採用で経験者を雇う手もあるでしょう。

これらの活動には全て少なくない費用がかかってきます。ただ、実質無借金経営にこだわるあまり貯蓄を優先し、必要な投資まで渋るようになってしまっては将来的に企業力が低下しかねません。長期的な収支を考え、キャッシュを使うべきだと判断すれば思い切って使うことも大切です。